「靴擦れが何週間もジュクジュクして治らない」「虫刺されを掻き壊したあと、いつまでも傷口が塞がらない」といった経験はありませんか。通常であれば数日から1週間程度で自然に治るはずの小さな傷が、なかなか治らない、あるいは徐々に悪化しているように感じる場合、その背景には「糖尿病」という病気が隠れている可能性があります。
糖尿病は初期段階では自覚症状がほとんどないため、健康診断で指摘されても放置してしまい、「傷の治りにくさ」によって初めて体の異変に気づく患者さんも少なくありません。
本記事では、なぜ糖尿病になると傷が治りにくくなるのか、そのメカニズムと放置するリスク、そして見逃してはいけない危険なサインについて内科医の視点から詳しく解説します。
糖尿病になると傷が治りにくくなる3つの理由
糖尿病の本質は、血液中の糖分(血糖値)が慢性的に高い状態が続くことです。この高血糖状態が、体が本来持っている「傷を治す力(自然治癒力)」を様々なルートで阻害してしまいます。
理由①:血管がダメージを受け、血流が悪化する(血流障害)
傷が治るためには、血液によって酸素や栄養、そして傷口を修復するための細胞が運ばれてくる必要があります。しかし、高血糖が続くと血管の壁が傷つき、特に手足の先を通る細い血管(毛細血管)が動脈硬化を起こして狭くなってしまいます。その結果、傷口に必要な栄養や酸素が十分に行き届かなくなり、修復作業が大幅に遅れてしまうのです。
理由②:免疫力が低下し、感染を起こしやすくなる
血液中の過剰な糖分は、体内に侵入した細菌やウイルスと戦う白血球や免疫細胞の働きを弱めてしまいます。さらに、細菌は糖分を好むため、高血糖の体内は細菌にとって非常に繁殖しやすい環境です。傷口から細菌が侵入すると、簡単に化膿(かのう)してしまい、傷が深く広がることになります。
理由③:痛みに気づけなくなる(神経障害)
糖尿病の三大合併症の一つに「神経障害」があります。これによって手足の感覚が鈍くなると、靴擦れや小さな怪我、火傷などをしても「痛み」を感じにくくなります。痛まないために傷があることに気づかず、靴で圧迫され続けたり、不衛生な状態のまま放置されたりすることで、発見したときにはすでに重症化しているケースが多々あります。
特に注意すべき「足の傷」と壊疽(えそ)のリスク
糖尿病において、最も警戒しなければならないのが「足の傷」です。これを医学的には「糖尿病性足病変(とうにょうびょうせいあしびょうへん)」と呼びます。
足は心臓から最も遠いため、もともと血流が滞りやすい場所です。そこに上記の「血流障害」「免疫力低下」「神経障害」の3つが重なると、ほんの少しの靴擦れやタコ、巻き爪、水虫のひび割れなどから一気に症状が進行します。
最悪の場合、組織が腐ってしまう「壊疽(えそ)」を引き起こし、足を切断せざるを得なくなることもあります。「たかが小さな傷」と油断することが、将来の歩行機能を奪う引き金になりかねないのが、糖尿病の恐ろしさです。
今すぐ内科を受診すべき「危険なサイン」
もし以下のような症状に心当たりがある場合は、自己判断で市販の軟膏などを塗って様子を見るのはやめ、早めに内科を受診してください。
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傷ができてから2週間以上経っても塞がる気配がない
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傷口の周りが赤く腫れ、熱を持っている
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傷口から嫌な臭いがしたり、黄色い膿(うみ)が出続けている
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足の裏にタコやウオノメがあり、その下が黒ずんでいる
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足の感覚が鈍い、ベールを一枚被ったような違和感がある
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喉が異常に渇く、尿の回数や量が増えた、急激に体重が減った(糖尿病の典型的な全身症状)
すでに糖尿病の治療中の方はもちろんのこと、これまで糖尿病を指摘されたことがない方や、過去の健康診断で「血糖値がやや高め」と言われたまま放置している方は、特に注意が必要です。
まとめ
「治らない傷」は、体が発している重大なサインかもしれません。糖尿病による傷の治りにくさを改善するためには、外科的な傷の処置だけでなく、根本にある「血糖値のコントロール(食事療法、運動療法、薬物療法)」が不可欠です。
血糖値を適切な範囲に管理することで、血管や神経へのダメージを抑え、体が本来持っている傷を治す力を取り戻すことができます。
当院では、糖尿病の早期発見・診断をはじめ、一人ひとりのライフスタイルに合わせた血糖管理の診療を行っております。「怪我の治りが遅くて不安」「最近、家族から足の傷を指摘された」という方は、深刻な合併症に進行する前に、どうぞお早めにご相談ください。